FRYN.

ラジオ、映画、本、音楽、服、食事、外国語学習、など趣味の記録。Twitter : @fryn_you

「妻が相手をしてくれなかったから性暴行した」のか?

news.livedoor.com

 

フォローしている人に、フェミニズム関連の方が多いので、この事件に関する感想が何度か回ってきた。たとえば、有名なシュナムルさんは、こうツイートしていた。

 

 

この手の性暴力が起きたときに、良く語られる動機(言い訳)が「欲求不満だったから」というもので、今回の被告の動機も、まさにこの類型に当てはまる。シュナムルさんのツイートは、男性の性欲に女性は答えるべきだという被告の歪んだ論理を批判するもので、その通りだと思う。

 

一方で思うのは、被告は本当に欲求不満だったから性犯罪を犯したのか、ということ。犯罪の動機なんて、そもそも、後付けであることも多いと思うし、明確に言語化できるものではないと思う。しかし、「欲求不満」語りには既視感があって、どこか胡散臭いし、リアリティにかける。

 

こういう事件と、「欲求不満」語りを聞くときにいつも思い出す本がある。

それは、『刑事司法とジェンダー』だ。

 

刑事司法とジェンダー

刑事司法とジェンダー

 

 

 この本は、現職警官で4人の女性を強姦した加害者がなぜ、性犯罪に至ったのかを、往復書簡や接見などから明らかにしていく。そして、性暴力加害者の動機が、刑事司法の場において、いかに型にはめられ、加害者が自分の加害性に向き合わなくなっているか、明らかにされる。

 たとえば、取材を通して、この加害者の動機は明らかに性的な欲求ではなく、仕事への重圧や、父親のような人間になりたいという男らしさへの固執にあることが示唆されている。しかし、刑事司法の場においては、警官の取り調べなどの機会を通じて、性的な欲求不足という、わかりやすい動機に歪められてしまうのだ。結果的に、加害者も欲求不満のせいにして、自分の本当の動機や加害者性と向き合わなくて済むようになっている。

 性暴力加害者に焦点を当てた本やルポルタージュはあるけれど、それをジェンダー研究という文脈に置いたことにこの本の独創性があると思う。

 

これと似たような話は二村ヒトシ『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』にも出てくる。

 本書での、カウンセラー・信田さよ子さんとの対談では、男性の暴力や性犯罪の動機が解明されていないことが言及されてる。信田さんはDV加害者の更生プログラムを運営しているので、そこで男性がどれだけ自分の加害性の原因と向き合おうとしないか、向き合えないかを語っている*1

 

この事件で思い出した本をもう一冊。『男が痴漢になる理由』だ。この本でも、性欲以外の様々な痴漢の原因が述べられている。特に過半数の加害者が痴漢中に勃起していなかったという、聞き取り調査の結果も、性欲だけが性犯罪を引き起こしているわけではないことを示唆している。

男が痴漢になる理由

男が痴漢になる理由

 

  この本が出版されたとき、書店で著者の斎藤章佳さんと、作家の中村うさぎさんのトークショーが開かれた。トークショーの終わりでは、質疑応答の時間があり、そこで、満員電車を解決することを研究されている方が、満員電車を解決すれば、痴漢も解決するはずだ、という話をした際に、恐らく、それはないだろう、と回答されていたのが印象に残った。

 僕もそう思う。研究への熱意は素晴らしいと思うし、満員電車は無くなればいいと思う。満員電車を解決しても、痴漢は根本的には無くならないと思う。そもそも、満員電車じゃなくても痴漢は起きるし、満員電車がなくなったところで、加害者は別のところで、性暴力を働く。

 本当に、性暴力をなくしていくには、加害者側が自分の加害性に向き合う必要がある。この三冊の本は、知りたくない加害者側の経験や、安易な「性欲」という言い訳を加害者与えることで、性犯罪と向き合うことを避けているこの社会が、少しずつでも変わるきっかけになる本だと思う。

 

(了)

*1:二村ヒトシ『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(イーストプレス、2014年)266-269)