FRYN.

ラジオ、映画、本、音楽、服、食事、外国語学習、など趣味の記録。Twitter : @fryn_you

青木真也『ストロング本能 人生を後悔しない「自分だけのものさし」』

 青木真也『ストロング本能 人生を後悔しない「自分だけのものさし」』

 

 総合格闘家青木真也選手が書いた本を読んだ。自己啓発本の部類に入ると思うが、「本能」という、野生的で身体感覚に基づいたアイデアが、格闘家らしいと思う。「ストロング本能」という粗野で大味に見えるタイトルに反して、とてもロジカルで筋の通った本だった。

 

現在では、かつてよりも会社や、地方公共団体、さらに言えば、国といった今までは潰れないと思われていたものの先行きが不確かになってきた。そこで、そういう大きなものに頼って生きるのを止めて、自分自身のものさしを持って、自分らしく生きた方が幸せになれるんじゃないか。そして、そのものさしになるのが、本能、であるというのがこの本の要旨だと思う。

 

本能というと抽象的だけど、言い換えれば、自分の意志、みたいなものだ。しかし、闇雲に自分の思ったとおりに生きていると、失敗するし、そもそも、自分が何をしたいのか、どうなったら幸せなのか、意識的に把握している人自体が少ない。青木選手は、まず自分の幸せや望む状態を明確にし、それを実現するために、本能にしたがって生きようと提案している。

 

「どれくらい有名になるのか」「どれくらいお金持ちになるのか」の明確な数値目標を設定しないと、つらい状態がずっと続きます。*1

 

地上波のテレビに出ると、爆発的に知名度は高まりますが、消費されるスピードが速まり、飽きられるスピードも速くなります。(中略)僕はなるべく消費されたくないし、カウンターカルチャーみたいに、根付いたら強い、そんな存在になりたいというクリアな意思があります。

それこそが、「ブレない自分だけのものさし」であり、このものさしが、「不安やストレスに負けないメンタル」を作る糧になります。「これでいい」という自分の目標が明確だから、ブレようがないんです。僕のルールはそう決まっている。多くの人はルールがあいまいで、目的がはっきりしていないからブレてしまうんです。*2

 

 

さらに、この本では、本能にしたがって生きること、そして、本能に従うために、自分の本能の精度をあげていく方法が具体的に書かれている。

 

例えば、メンタル面では、自分の精神的な特徴―アガりやすいなど―を把握して、それを受け入れたうえで対策を講じること、自分の考えや感情を紙に書きだし、固定化して整理することで振り回されないようにすること、などが書かれている。特に特徴的だと思ったのが、身体感覚を通じてメンタルに働きかける、という話だった。不安を打ち消すために自分で自分に「大丈夫だ」「俺はやれる」などと話しかけたり(セルフトーク)、周りの人からも大一番の日はポジティブな言葉をかけてもらうように頼んでおく、など、格闘選手ならではの方法だと思った。

 

特に読んでいて、良いなと思ったのは、第2章の最初、「禁止されても「やってしまう衝動」にヒントがある」というところ。青木選手は、やりたいことを見つけるのは難しい、と断ったうえで、やりたくないことをやらされている時にこそ、やりたいことを見つけるきっかけになるという。一旦は警察に就職したものの、役割を押し付けられ、やりたくないことをやらされていて、「自分はやっぱり格闘技がやりたいんだ」と気づいた青木選手の経験が反映された考え方だ。

 

そして、会社などに違和感を覚えて、「辞めたいな」と思ってしまったら、生活の見通しを立てたうえで、とりあえず辞めてしまえばいい、と言う。人間はある環境にいると、つまらないことにも馴れてしまって、アクションを起こす動機がなくなってしまうから。これに対して、「石の上にも三年」みたいな、世の中の処世術は、「慣れて心地よくなるまでやってみろ」ということだ。しかし、青木選手は自分の本能に従え、と言う。かつての処世術とは反対の考え方が本能にしたがって生きる、青木選手の真骨頂だと思った。

 

このようにして、この本では、自分のものさしにしたがって生きること、自分のものさしを作って磨き、その精度を上げていく具体的な方法が他にも多く書かれている。自分の現状に何か疑問を持っている人、自分の考えを持って動けない人には、参考になる一冊だと思う。

 

ところで、この本を読んだときに連想した本があった。

カリスマ教師の心づくり塾 日経プレミアシリーズ

カリスマ教師の心づくり塾 日経プレミアシリーズ

 

 

本気の教育でなければ子どもは変わらない (日経ビジネス人文庫)

本気の教育でなければ子どもは変わらない (日経ビジネス人文庫)

 

 

 

大阪の中学校教師で、荒れた学校を立て直し、陸上部を十三回の全国優勝に導いた、原田隆史さんの本。彼がどのように荒れた学校を立て直したのか、選手を育てていったのか、具体的に書かれている。青木選手の場合は、ブレない本能にしたがって生きろ、というが、原田の方は「ブレない理念」を持って、「自立型人間」になれという。そのために、付箋を使って自分の理念を練り上げたり、日誌で自分の考えを整理したり、ルーティンチェック表を使って生活習慣を作り上げていく方法を提示している。また、メンタルを強くするためのセルフトークの話も出てくる。『ストロング本能』と似た話が、違った切り口から語られていて面白いので、読んでみてもいいと思う。

 

最後に、この本を買ったきっかけについて。実は、自分は青木選手を知ったいたしツイッターもフォローしていたけど、熱心なファンではなく、この本も出ることは知っていたけど、買うつもりはなかった。買ったきっかけは、青木選手のツイートだった。

 

 

このツイートを見たとき、ちょうど自分は新宿の南口にいて、あの青木選手に会える、と思うと何かワクワクした。一方で、少し怖いなという気持ちもあったけど、こんなまたとない機会を逃したくないという気持ちが勝った。さっそく、ルミネのブックファーストに行って、本をすぐに購入、スタバに向かった。ドキドキしながら探すと、スタバの入り口わきのテラス席に青木選手が座っていた。「あの、青木選手ですか・・・?」緊張しながら話しかけると、青木選手はガッと熱い握手をしてくれて、本にサインをくれた。

 

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二言三言、何か話した気もするけど、緊張していて忘れてしまった。最後に「頑張ってください」と言って、もう一度握手して別れた。あの力強い握手は忘れないと思う。また、ツイッターから偶然、この本を買うことになったけど、あのとき思い切ってアクションを起こしてよかった。これからも本能にしたがって、小さなアクションを積み重ねていこうと思った(雑な終わり)

 

(了)

*1:p.40

*2:p.44