FRYN.

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ミハイル・ブルガーコフ『犬の心臓・運命の卵』

 

犬の心臓・運命の卵 (新潮文庫)

犬の心臓・運命の卵 (新潮文庫)

 

 

読書会の課題本になっていたので、読みました。ミハイル・ブルガーコフ『犬の心臓・運命の卵』。

 

ミハイル・ブルガーコフ(1891~1940)は、父が神学大学の教授という、教養市民層の生まれで、医者だった。しかし、のちに、同じく医者だったアントン・チェーホフのように文学に目覚めて、作家に転身した。代表作には『巨匠マルゲリータ』があり、作品の多くは、反革命的だとされ、発禁処分、戯曲は上映中止になった。しかし、スターリンも、その才能を高く評価しており、上映中止になった劇を、一部の劇場でのみ上映させ、自分も足を運んだ。最終的にブルガーコフがストレスで病を悪化させ、亡くなったときもスターリンの秘書を名乗る人物から彼のアパートに電話があったらしい。*1

 

恥ずかしいことだけど、ブルガーコフについて、これまで1ミリも知らずにいたので、作品も古いし、読み切れるかどうか、心配だった。しかし、読んでみると、思った以上に読みやすく、まるでジャンル映画のようなポップな作品だった。

 

「犬の心臓」は科学者が犬に人間の睾丸と脳下垂体を移植したことで、犬が人間になってしまい、しかも、もとの人間の素行が悪かったから、さあ、大変。犬は、どんどん下品で粗野な人間になっていき、罵詈雑言を並べるわ、女を口説くわ、猫殺しの仕事を見つけてくるわ、で作った科学者の手に負えなくなっていく。どことなく、フランケンシュタインの怪物、を思わせるけど、フランケンシュタインのような重さというか、悲劇性もあまりない。犬人間は粗野で下品で、どこか滑稽だ。生みの親に反抗しつつ、科学者と一緒に同居しているのも(当時の社会事情があるとはいえ)、反抗期の子供みたいだった。

 

「運命の卵」は、科学者が繁殖力を高める生命光線を開発したものの、役人がそれを卵に使ってニワトリを繁殖させようとしたら、間違って届いたアナコンダの卵に使ってしまい、アナコンダが大繁殖、人々を襲いまくるというお話。あらすじを聞いているだけでも、まるでB級映画みたいだ。実際、アナコンダが人を襲うシーンは秀逸で、モンスター映画のワンシーンみたいだった。終わり方の都合のよさも、いさぎよい。章の名前自体に「機械仕掛けの~」と入っているので、作者も意識的にやっていると思う。個人的には、「運命の卵」の、光線をもう一度作ろうとしたけど、同じものは二度と作れなかった、という終わり方が気になっていた。読書会で、光文社元編集長の駒井さんが、科学の肝は再現性であり、その再現性が担保されなかったということは、そこまでの話が全く信用にならない、妄想に近いものだったんじゃないかということを示唆している、と解説をしていて、とても腑に落ちた。

 

(了)

*1:「訳者あとがき」374-377